
「水面から見る東京」でマンネリ化した週末に刺激を
小型船舶免許を再発行して以来、ゴルフに加えて東京湾や都心の運河をプレジャーボートで巡るのが趣味になっている。
中でもずっと気になっていたのが、日本橋川と神田川だ。
御茶ノ水の聖橋から見下ろす神田川や、日本橋から眼下に見る日本橋川の狭い水路を、果たしてプレジャーボートで進めるのか?という素朴な疑問がずっとあった。
そんな疑問を解消しようと、今回は「下見」を兼ねて観光船によるクルージングに参加してみた。
自分の目でルートを確認しつつ、観光としても楽しめる一石二鳥の体験になるのではと期待していた。
乗船するのは日本橋の袂(たもと)である。

乗合い観光船「日本橋クルーズ」でめぐる、橋の下の物語
今回乗船したのは「日本橋クルーズ」の観光船。
複数あるコースの中から選んだのは、日本橋川〜神田川〜隅田川をぐるりと回る約90分の遊覧コースだ。
最大44名乗船可能な中型船で、屋根が無いため視界が広く、橋をくぐるたびに天井スレスレを通過するスリルが味わえる。
このクルーズでくぐる橋の数は、なんと50本以上。
新しい橋が視界に入る度に、船長兼ガイドさんがその歴史やエピソードを紹介し、途中には船長の軽妙なジョークも入り、和やかで笑いの絶えないクルーズとなった。
“小ボケ”などは特にネタバレになるのでここでは詳しく触れないが、船長のセンスには拍手を送りたい。
目からウロコの新知識!東京の知られざる景色5選
当日の天候は曇りで気温は23度。
やや風があり、乗船中は肌寒さを感じるほど。
普段行かない所や景色を見に行っていることもあるが、船長のガイドは聞いたことのない逸話が多く、
ここで印象に残ったスポットをいくつか紹介したい。
江戸城の石垣を間近に
日本の中心・江戸城の石垣が、今もなお都心の川沿いに残っている。
その積み方には三種類あり、日本橋川では「野面積み(のづらつみ)」、「打込接(うちこみはぎ)」、「切込接(きりこみはぎ)」3種類が近いポイントで見られ、それぞれの特長や築かれた背景をガイドが解説してくれた。
目の前にそびえる歴史の遺構に、周囲から思わず「ほぉ〜」と感嘆の声が漏れる。

石垣に刻印、天下普請(てんかぶしん)
天下普請(江戸幕府から全国の大名への命令による土木工事)のアピールのため、一部の石には刻印が今もハッキリと残っている。
白文字で#160の石の左2個と、右4つ目に”田”が見れるだろうか。

「田」の字は加賀の前田家?島津家?
昭和の短期間で首都高作る際に石垣を一度崩して組み直すことになったが、修復の組直しの折に石が混在してバラバラになったそうだ。
ゴミ運搬のエコな仕組み
日本橋川から神田川に入って、すぐの千代田区三崎町にある清掃事務所の中継所。

建物から黒くて太い筒が張り出しているのだが、これは千代田区・文京区で出た不燃ゴミを船に乗せ換え、川を下って防波堤埋立処理場まで運ぶというインフラの拠点だ。
。
トラックによる陸上輸送よりもエコで渋滞も無関係のため、なんてエコで効率の良い輸送方法だろうと思ってしまった。
古(いにしえ)の流通ルートではあるのだが、とても良い仕組みを活かした残すべき取組みだろう。
戦争の記憶が残る後楽橋
JR水道橋駅近くの後楽橋。
当然、歩道の上はアスファルトで隠れているが、この橋の裏側を船から見上げると、戦時中の空襲の爆弾によって開いた穴が生々しく残っていた。

JR水道橋駅から東京ドームに行くときに渡るあの橋も実は戦争遺産だったのだ。
わずか数メートルの距離で戦争の痕跡を見ることで、歴史を「体感」する感覚に包まれた。
御茶ノ水の鉄道立体交差を真下から
御茶ノ水といえば、電車が走る鉄橋の上から神田川を見下ろすのが定番。
しかし今回はその逆。
地下鉄やJR、中央線が交差する鉄道構造物を下から仰ぎ見るという、なかなか得難い体験だ。

ちょうど丸の内線が通過した瞬間には、運転士が警笛を鳴らしてくれるサービス(?)もあり、なかなかコミュニケーションが上手だった。
秋葉原の山手線橋梁の歴史
秋葉原駅近くの山手線の橋梁は、実は大正14年に山手線が環状運転を開始する最後のピースとなった構造物。

この橋によって山手線の環状化が完成し、今年で100年らしい。
現在の山手線の姿を決定づけたという話は初耳だったが、こうした「都市の進化の裏話」が聞けるのも、この神田川クルージングの醍醐味だ。
操船者目線で見た「狭水路航行」のヒント
今回の体験には、一つ大きな目的があった。
それは、近い将来に自分のプレジャーボートでこのルートを安心して航行できるようにすることだ。
事前に気になっていたのが、狭い川幅の中で遊覧船と遭遇した際の対応。

航行中にすれ違う場合、プレジャーボートは左側を空けて右側通行が基本ルールだが、実際に追い抜ける場所はあるのだろうか?
下船時に船長に質問してみたところ、「滅多に出会わないですよ」と笑顔で答えてくれた。
基本的には無理に追い越そうとせず、しばらく後ろをついて進み、遊覧船が観光案内などで停船したタイミングで、安全を確認ながらスリ抜けるのが良さそうだ。
引き波にも要注意。
狭い水路では波が反射して何度も戻ってくるため、静かに、そして控えめに進むのがマナー。
安全と周囲への配慮を忘れずに航行したい。
90分で得られる「粋な知的体験」と「大人の余裕」
橋の歴史や東京の知られざるインフラ、戦争の記憶、水面から見上げる都会の姿──。
たった90分で、これだけの情報と感動が詰まっていたことに驚かされる。
ゴルフ仲間に話したくなるような知識や、日常では味わえない「裏東京」を知る優越感。
まさに、大人のための知的なレジャーといえるだろう。
クルーズの後は、日本橋界隈で美味しいランチを楽しんだり、甘味処で休憩したりするのも一興。
非日常の余韻に浸りながら、都会の歴史を感じる90分──それはまるで、水上の書斎で過ごすひとときのようだった。

















